松下幸之助さんとは、時折、昼食を外で一緒することがあった。京都と東京を拠点にして経営活動をしていた。この話は、東京での話になるが、ある昼、食事に出かけようということになった。東京は、三番町に拠点があったから、ともかく、近くの有名なホテルに行き、フランス料理を食べようということになった。
テーブルに着いて、それなりの料理を注文した。もちろん、私も、松下さんと同じ料理を注文した。ほどなく料理が順番に出てくる。松下さんはゆっくり、私は、それなりの速さで次々に食べていった。しかし、途中から、松下さんは、料理をあまり食べなくなった。私は、若いということもあって、出てくる料理を次々に食べていったが、松下さんの食べるペースは、さらに遅くなる。う~ん、やはり、フランス料理は口に合わなかったかなあ、いや、松下さんにとっては、あまり美味しくない料理かなあと、食べながら思っていた矢先に、松下さんが私に、「君、シェフを呼んでくれや」と言う。やはり、料理が不味かったのか、それで、なにかひと言、シェフに言うのかと、少々不安を覚えながら、シェフのところに行き、「すみません。ちょっとテーブルまで来ていただけませんか」と、恐る恐る頼んだ。シェフは、松下幸之助さんだと承知していたから、相当緊張して、コック帽を両手で持って、松下さんの座っているテーブルにやってきた。「なにか御用でしょうか。なにか失礼なことでも・・」と言うのを遮って、松下さんが、「ワシは料理を全部食べ切れんのや」と言う。そのひと言で、私も緊張した。が、続けて、「ワシはこの歳やろ。食が細いんや。それで、こう残したんや。料理は美味かった。けど、そういうことで残したんや。気イ悪うせんといてや」。
そのひと言を聞いて、シェフの顔が笑みに変わった。「いや、結構でございます。この店に来ていただき、少しでも食べていただくだけで、私としては、まことに嬉しく、光栄でございます」。 その松下幸之助さんの対応に、傍で見ていた私は、感動した。真の指導者は、このような配慮が出来ることが大事なんだと、その瞬間、思った。食べに来てやった、カネを払うから、残しても構うものか、と普通なら、そう思う。黙って、席を立ち、カネを払って、店を出る。それでいい。しかし、そういう配慮、心くばり。そのシェフの笑みと、そして、多分、厨房で仲間に語ったであろうと、今でも忘れられない思い出である。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。