第10回 続・松下幸之助の経営心話      【観光立国は、徳育を忘れてはいけない】

日本は、国土全体を整備して、観光国家にしていくことが、きわめて重要なことではないかと思う。


むろん整備開発といっても、自然を破壊するようなことであってはならない。あくまでも自然の美を生かし、その価値を一層高めるような、そういった整備開発でなければならないと思う。


このことは、日本のためだけでなく、日本ほどの景観に恵まれていない世界の人達のためにも、やらなければならないことである。考え方によっては、日本は世界の中で、一番価値の高い観光資源に恵まれている、いわば聖地といえよう。


しかし、そのためには、単に自然の景観が美しいというだけではいけない。いわば、世界の聖地にふさわしく、物心ともにあらゆる面において高く評価される国にならなければならないと思う。


つまり、素晴らしい街並み、素晴らしい施設、素晴らしい環境を持つ国にしなければならないということになる。


いや、それだけではない。なによりも国民の心を養い高めなければならないし、マナーも世界一にならなければならないと思う。そのためには、そのように心を養い高め、マナーを教育することも必要だろう。だから、ここでいう観光国家は、徳行国家であり、マナー国家である。


このように国民の心を養い高めつつ、一方で国土を整備し、自然美を開発し、あわせ町並みや施設環境を整えて、いわゆる日本美を創造するということは、大きな国民的事業であり、もしこれに成功すれば、日本は長期にわたって一大発展をとげることになる。


(昭和49年『崩れゆく日本をどう救うか』挟み込み追加解説書)


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(江口克彦のコメント)


松下幸之助さんが、「観光国家」と発言し出したのは、終戦から7、8年後だと思います。そして、昭和29年(1954)に、『文藝春秋』の5月号に「観光立国の弁」という主張を載せています。


第二次安倍内閣が、海外からの観光客を呼び込もうと打ち出し、令和元年(2019)の外国人観光客は、3,200万人ほどになりましたが、当時、昭和29年は、多分、10万人前後だったのではないでしょうか。(データが不明ですので、昭和39年(1964)の35万人から類推)


そのとき、すでに観光国家、観光立国になるべきだという主張した松下さんの慧眼には脱帽するしかありません。


私は、今まで45ヶ国ほど、海外に出かけましたが、日本ほど、景観に富み、四季折々に素晴らしい風景が多い国は、あまりありません。世界中の人たちに風光明媚な観光を提供する責任があるのではないかと思うほどです。


しかし、松下さんは、ただの観光国家ではいけないと言います。


そのためには、国民の心を養い高め、マナーも世界一にならなければならない。また、日本人の心をさらに養い高め、マナーを教育する必要がある。だから、観光国家は、徳行国家であり、マナー国家でもあるという考えは、いかにも松下幸之助さんらしいと思います。


要は、外国人観光客が日本の風景、景観に感動感銘するだけでなく、日本国民に感動感銘してもらうことも大事だというのです。


事業としての観光国家になるだけでは不十分だという、こういうところは、今の経済面だけの観光立国政策とは、大いに異なるところではないかと思います。

2025.05.15
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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