会社を始めた頃、人材を求めるにあたって、どのように心がけていたかというご質問ですな。
私の時代は、人があったんですよ、幸いにして。それでも学校を一番で出るとか三番で出るという人は、来てくれませんわ、実際、その時分の松下電器は。また、来てくれたら、こっちも困ります、むこうのほうが偉いんだから、かえって。(笑)
だから、その会社にふさわしい人でいいわけですわな。(中略)皆さんのお立場もいろいろありますが、人材はその会社にふさわしい状態において集めることですね。
実際、よすぎても困りますわ。よすぎた人で、よく働いてくれる人も、なかにはありますけれども、よすぎた人は、“なんや、こんなつまらん会社に入ったな、困ったな”ということになりますわ。けれども、そうでない人だったら、それでも感激して、“この会社、結構や”と言って働いてくれますわ。そのほうがずっとありがたいですわな。
だから、あんまりいい人を集め過ぎてもあきませんで。(笑)分に応じた、という言葉がありますが、分に応じた会社、分に応じた店に、分に応じた人を集めたほうがええと、一応、考えていいと思うんですよ。
まあ、能力70点の人は集まるもので。そのほうが幸せであると。もし、能力100点の人が集まったら、むしろかえって後で困るということになるかも分からんですもんな。
そういうことを、まあ、心がけるというか、自然にそういう人材の求め方をしておったように思いますな。
(昭和38年8月21日 日本青年会議所ゼミナールでの質疑応答)
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(江口克彦のコメント)
こういう考え方は、人材登用でも同じでした。昇進させるとき、大抵は、その人材の能力が80点、90点、経営者によっては、100点でなければ、昇進させないという人もいます。しかし、松下幸之助さんは、60点であれば、どんどん起用、登用していました。
ただ、その場合でも、松下さんが、見ていたのは、「熱意」。熱意があるかどうかということ。能力は60点でも、熱意は、90点、100点を求めていました。松下さんは、能力というものは、その人に熱意があれば、いくらでも伸びていくと考えていたからです。
ですから、70点、60点のほうが、育て方によっては、むしろ、ノビシロがあるということ。また、松下電器の考えを理解させやすいということであったのではないでしょうか。
「松下電器は、人をつくる会社」という、松下さんの有名な言葉がありますが、その言葉通り、仕事を通して学ばせる人材育成によって、60点、70点の人材でも、やがて、100点に近い人材に育ったのは、確かです。だからこそ、松下電器は、発展し続け、世界から賞賛される会社に成長することができたのです。
松下幸之助さんの、その人材育成の特徴を4項目に集約して挙げれば、
a)方針を明らかにして、育てたこと
b)尋ねて問うて、育てたこと
c)権限を与えて、育てたこと
d)感動を与えて、育てたこと
であったと言えると思います。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。