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第13回 続・松下幸之助の経営心話      【民貧すれば、国即ち衰え、民豊かなれば、国即ち富む】


ある人からこういう話を聞いたことがある。今日、東京大学には年に約500億円(1974年現在)の国費が使われているという。


もちろん、東京大学は非常に立派な大学だから、大学数を半数にするにしても、残すほうに入るであろうが、かりに東京大学をなくすとすれば、年に500億円の国費がいらなくなる。


それだけではない。東京大学には、土地とか、いろいろな施設といった資産がある。その資産は少な目に見ても1兆円をくだらないだろう。


だから、その資産を民間に1兆円で払い下げたとすると、今度はその1兆円に年々利息がつく。かりに利率を1割としても1,000億円になる。


その1,000億円と先の500億円で、1,500億円の国費が東京大学をなくすことによって年々生まれてくるということになる。


かりにその1,500億円を低所得層の減税にまわすと、少なくとも、700万人の個人所得税が無税になる。東京大学をなくすことによって、それだけの低所得者の人の税金がタダになる。


このことは見方によれば、東京大学は6〜7百万人の低所得者の税金によって支えられているということになる。こういうことは認識されなくてはならない。


東京大学一つをとってもそれほどである。今日国立大学は短大もあわせれば約100校ある。それに対して約500億円の国費が使われており、何百とある私立大学に対しても約700億円の補助が国庫から出されている。


だから、大学を半減することによって、直接的には3,000億円近い国費が不要となり、先に言った資産売却の利息を加えれば、だいたい2兆円ぐらいになるのではないか。


それをすべて減税にあてれば、2,400万人以上の比較的低額な所得者の個人所得税を無税にできるだろうし、あるいはそれを福祉の向上に使えば、非常な効果があがるだろう。


(『崩れゆく日本をどう救うか』昭和49年初版 「教育を考える」)


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(江口克彦のコメント)


松下幸之助さんが言うには、政治家の重要な使命の一つは、いかに税金を安くするかにあるということです。

重税すれば、国民の実所得(可処分所得)が減る。減れば、生活の質を落とさざるを得ない。そうなれば、要るものも買わない。買わないから、モノが売れない。モノが売れないから、生産が不活発になる。なれば、給料が減る。だから、税収が減る。減ると、国は増税する。すると、さらに国民の実所得が減る。・・いわば、「税の悪循環」、「税の負のサイクル」が、止めどもなく、回り続けます。


これでは、国民が疲弊し、貧困が増殖し、格差が生まれるばかり。国民が貧することは、国家が貧することです。


逆に、松下幸之助さんのような発想をすれば、増税を回避できるだけでなく、恵まれない人たちを無税、減税することもできるでしょう。となれば、結果、国家は豊かになります。


いわば、「税の善循環」、「税の正のサイクル」が回りはじめます。すなわち、減税すれば、国民の所得が増える。増えれば、モノを買う。買えば、お店も工場も活気が生まれる。活気が生まれれば、売り上げが上がる。利益も上がる。給料も上がる。となれば、結果として、国の税収も増える。国家も豊かになる。


いまの日本の政治家、官僚は、どうやら、「税の悪循環」、「税の負のサイクル」を選択しているように思います。


この悪循環から脱するためには、松下幸之助式発想しかないのではないかと思います。なにも、大学だけでなく、これ以外にも幾らでもあります。


例えば、75年前に決められた国会議員の定数。交通インフラ、通信インフラなど、隔世の進歩を遂げた今、半減すれば、これまた、3〜5兆円の国家予算削減になるでしょう。


「民貧すれば、国即ち衰え、民豊かなれば、国即ち富む」と、松下幸之助さんは考えていました。

2025.07.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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