諸君の真摯なる努力により、年一年進展をみつつあることは、まことに慶(よろこば)しい次第であるが、さて翻(ひるがえ)って考える時、自分の責務はこれに伴って加重する(ますます大きくなる)のである。
すなわち、諸君の努力を活かすも殺すも、自分の指導よろしきを得るか否かによって決せられるのであるから、深甚の考慮を払わなければならないことを痛感する。
しかしながら、諸君、憂(うれ)うるなかれ、自分には確固たる経営方策があり、断じて誤らざることを明言し得るのである。安心して追随してきてもらいたい。
ただし諸君は、各自受持った仕事を、忠実にやるというだけでは十分ではない。必ずその仕事の上に、経営意識を働かせなければ駄目である。
いかなる仕事も一つの経営と観念する(思い定める)ところに、適切な工夫もできれば、新発見も生まれるものであり、それが本所(=松下電気器具製作所)業務上効果大なるのみならず、もって諸君各自の向上に大いに役立つことを考えられたい。
されば諸君に今日のお年玉として左の標語を呈しよう。
「経営のコツ此処(ここ)なりと気付いた価値は百万両」
これは決して誇大な妄語(もうご)ではなく、真に経営の真髄を悟り得た上は、十万、百万の富を獲得することもさしたる難事ではないと信ずるのである。
(昭和9年1月 「所主一日一話」)
※※※※※※※※※※※※※※※※※
(江口克彦のコメント)
前々年、昭和7年5月5日に「産業人の使命」を発表してからの松下幸之助さんの話には、なにかしら、確信めいた力強さが出てきますが、この社員に向けた年頭メッセージにも、それが表れていると思います。
この会社の社員の努力を活かすも殺すも、私、松下幸之助に責任があるが、心配するな。私には確固たる経営方策があり、経営方針があり、使命感がある。安心して、私に、ついてこい!と、これほどの確信をもって、社長から語りかけられれば、社員に不安が生まれることはないのではないでしょうか。
加えて、社員にも経営意識を持つように、「社員稼業(しゃいんかぎょう)」に徹し、日々新たに創意工夫をして、効果を挙げていってほしい、そして、経営の真髄を悟ってほしい、コツをつかんでほしい、と求めつつ、それはまた、社員諸君の成長にもつながるのだと言っています。
1.社長の「絶対的確信」と、2.社員への「明確な要望」。松下幸之助さんの、社員への、この短い年頭所信、年頭メッセージで、社長たる者は、この2つを、年初に、まず押さえることが大事なのかと、私は現役社長のとき、強烈に感じたことを、今でも忘れることはありません。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。