いま、借入金が資本金の5倍あるが、自己資本を蓄積する方法を教えろということですな。それは、非常に肝要なご質問だと思いますが、なかなか100万円、200万円の授業料では、教えることはできませんな。(笑)
まあ、すぐに自己資本には置き換えられないでしょう。しかし、逐次自己資本に置き換える方策をとることは出来ると思うんです。それは、あなたご自身の決心から始まらないといかんです。これはできない、難しいと言っておったら、おそらくできないでしょう。
しかし、いっぺんにはやれない。だからいま5倍ある借入金を1年で4倍に減らすということであれば、そう難しく考えなくてもやれるでしょう。
結局、儲けるより仕方ないですよ。そのためには、儲かるような仕事をせねばならない。そういうことに深い強い決心をする。
また、思いを変えて、会社に帰ったら、どこにムダがあるかを発見する。その一歩から始めないと、ダメやと思います。発見しようという心があれば、ムダは随所にあると思うんです。
あなたの会社の経営について、私は知りませんけれど、完全無欠やとは思いません。たくさん欠点があると思います。その欠点をいっぺんにやらなくてもよろしいから、一つずつ拾っていけば、遠からずして、自分が思うようになると思います。
だから、それは心配ないですよ。そういう勇気を持てばね。
(昭和40年2月 協力工場懇談会)
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(江口克彦のコメント)
要は、経営に奇策はないということでしょう。借入金を減らすには、(1)減らすんだと決意すること。(2)いっぺんに減らそうと思わず、時間をかけて計画的に減らすこと。(3)そのためには、売り上げを伸ばし、利益を確保すること、そして(4)経営のムダを徹底的に排除することを、松下幸之助さんは、ここでは挙げています。
自己資本は、資本金と内部留保を合算したものですが、つまるところ、内部留保をいかに蓄積するかが大事になります。では、内部留保を、どれほど蓄積すればいいのかというと、もちろん、多ければ多いほど、ということになります。
しかし、経験的に言えば、経営、商売が機能不全に陥っても、ひとりの従業員、社員もリストラすることなく、2年間、経営、商売をそのまま維持出来る内部留保を蓄積することが、ひとつのメドになると思います。
そこまで内部留保を蓄積すれば、それからは、従業員、社員の給与を上げていく、彼らの所得にまわしていくべきでしょう。そうすることによって、従業員、社員の所得は、業界最高になり、社内は、一層まとまり、したがって、ますますその会社は成長発展することになるでしょう。
借入金があるなら、計画的にゼロにし、いわば、無借金経営を実現し、それだけでなく、社員の、従業員の所得を増やすこと。そのような経営、すなわち、ダム経営を、松下幸之助さんは言外に話しているのだと思います。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。