「人間大事」と「人間ファースト」

松下幸之助さんの人間観は、「人間は、宇宙に君臨する王者、偉大な存在である」というもの。だから、ひと言で言えば、「人間大事」ということになる。いわば、「組体操」の頂点に位置しているのが、「人間」ということである。

人は誰でも、いわば、「ダイヤモンドの原石」を有している。だから、お互いに、尊重し合い、丁寧に接しなければならない。ましてや、力で相手をねじ伏せ、相手の人格を傷つけることは、「王者」とは言えない。それは「覇者」の振る舞い。松下さんが「王者」という言葉を、その人間観で使っていることに注目してほしい。「王者」という言葉は、慈愛、慈悲を表している。

「人間は宇宙に君臨している」という表現は、不遜であると思うかもしれない。だがしかし、北海道の道路で、キタキツネを轢き殺しても、報道もされない。牛を飼い、繁殖させて殺し、牛肉として、食している。豚も鶏も同様。ところが、人間が人間を殺害すれば、報道されるだけでなく、死刑など処罰される。それは、なぜか。

そういうことは、現実を見て考えれば、明らかに「人間は、宇宙に君臨する王者、偉大な存在である」ことが、すぐ分かる。先述の通り、まさに、人間は、「組み体操」のてっぺんに位置している。だからこそ、頂点に位置する者としての自覚と責任を意識しなければならない。その自覚と責任の認識がなく、頂点に位置しているから、なにをしてもいい、となれば、その組体操は崩れ去り、人間は、転落し、死ぬ。だからこそ、人間を支えてくれている宇宙万物に慈悲の心を持って対応しなければならない、というのが、松下幸之助さんの人間観である。  

そう説明すると、「人間ファーストですね」と言う人がいる。いや、ちょっと待ってほしい。「人間大事」は、「和の論理」。人間が大事であれば、宇宙万物と「共存共栄」しなければならない。そうでなければ、「組体操の頂点」に位置することはできない。しかし、「人間ファースト」であれば、人間第一主義。人間がよければ、他のことは一切考えない。いわば、「排除の論理」。アメリカのトランプ前大統領の「アメリカファースト」を思い起こしてみればいい。彼は、他国民を排除し、アメリカが第一になるなら、いわば、悪魔と手を握ることもいとわなかった。「共存共栄」と「我よし主義」とは異なる。

商売、経営は、「人間大事」を根底にした、「共存共栄」でしか、成長発展しないことを理解しておいたほうがいいということである。

2023.04.15
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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