【「ない」前提の対話 「ある前提」の対話】

新入社員や新メンバーを迎え、育成に力を入れている方も多い時期かと思います。今回は、
相手と向き合うあり方が自然と言葉に表れると感じた事例からご紹介します。

中学生のお子さんを持つAさんは、お子さんとの対話の中でハッとさせられた瞬間があっ
たそうです。お子さんが「この学校を受験したい」と志望校について話した時に、「そこ
大丈夫?」と確認しました。すると、お子さんから、「お母さんって、いつも僕が失敗す
る前提で考えてるよね」と言われたそうです。

Aさんは反省されていました。「確かに私はいつもそうなんです。『自信がないなら無理
しなくていいよ』とか、『最初からうまくできなくても大丈夫だよ』とか、『できない』
前提の言い方が多かったなと思いました」。
励ますつもりで、「自信がないなら」、「うまくできなくても」といった「ない」
を前提とした言葉をかけていることはないでしょうか。「ない」前提で言葉をかけて
いると、「あなたはできない人」という暗示を擦り込むことになってしまいます。

では、「ある」前提の言葉とはどんな言葉でしょうか。例えば、こんな問いかけしてみる
のはいかがでしょうか。
「あなたは全部得意だと思うけど、まず何からやってみる?」(全部得意と言える力があ
る前提)、「あなたならすぐできると思うけど、いつだったらできそうかな?」(すぐで
きる力がある前提)など。折々に言われていたら、本人もだんだんその前提で考えるよう
になっていきます。

他にも、一日の終わりに、「今日も学んだことがたくさんあったと思うけど、一番の学び
は何?」といった質問をしてみます。「学んだことがあった」かどうかはわかりませんが、
「学んだことがあった」前提で質問することで、「一番の学びって何だろう?」と意識を
向けて考えられるようになります。

他にも、「今日できるようになったことはどんなことかな?」も試してみていただきたい
質問です。できるようになったことがあったかどうかはわかりませんが、あった前提で質
問します。そうすると「何だろう?」と相手は考え始めます。「ある」前提で考えると、
「あ!これってそうかも!」と思い当たるようになっていきます。「何もなかった」前提
だと、あったとしても思い出せないのです。

「ない」前提の対話、「ある」前提の対話どちらの積み重ねが、相手の意欲や自己肯定
感を育み、成長を促進させるでしょうか。言うまでもないことかと思います。すぐに反応
がなかったとしても心配することはありません。言葉をかけ続けることで、「ある」前提
で考える思考回路が発達していきます。

2024.05.01
いいね! ツイート

投稿者

石川尚子

講師 石川尚子

パーソナルコーチを行う傍ら、「夢をかなえるコミュニケーション」「自発的な部下の育成」等をテーマとしたコーチング研修講師として活躍中。

関連記事

企業や人の育成でお困りの方はお気軽にご相談ください

松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。