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第6回 続・松下幸之助の経営心話      【社員に目標を示しているか】

社長がどういうことを考えてるんだろうか、どういうイメージをもっているかということを、社員は知りたいだろうし、そういうものを社員に絶えず知らしめないといかん。


それを知らせていないと、社員はどうしても力が入らない。なにげに働いているようになる。


3年先には、我が社はこういう仕事をするんだ、松下電器はこうなるんだ、だから、皆さんもそういうふうに考えてやってくれと、そういうものを与えないかん。


松下電器の歴史を振り返ってみると、10年前(昭和35年)にですね、5年後に週休二日制をやろうと、まあ、話をしたことがある。それが一つの方針、目標を与えたことになる。


また、5年先には、欧州の賃金と同一にするんだ、だから、そのつもりで、一緒にやろうやないか、というようなことを言った。これも一つの方針、目標を与えたことになる。


社員は、うちとこ(=自分たち)の会社はそういう目標で進む。なら、自分たちも進んでやろうと、まあ、考える。そうなると、社員はそのつもりで(心を一つにして)やっていくと。


そういうことで、絶えず、会社の方向と言いますか、会社の使命というものを刻々と発表していくというか、全体の心を一つにして、引きずっていくようなものを示さんと、経営においては、具合悪いと。


そうすると、社員一丸となって、社員はわき目をふらずやるようになるということを、いま、会社の首脳者は知っておかんといかんわけや。


(昭和48年1月  松下電器 幹部社員への話)


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(江口克彦のコメント)


「人間は希望を持つことによって、はじめて存在することができる存在」であるように、企業もまた、「目標を持つことによって、はじめて存在することができる存在」ではないかと思います。


松下幸之助さんの経営の成功は、常に社員に夢や希望や目標や方針を提示して、その実現を目指して、全社員の心をまとめ続けたことにあると言えます。


その夢や希望を、目標や方針を全社員打って一丸となって追い求めていく過程で、「感動」が生まれ、さまざまな「物語」が生まれ、社員は、その「物語」の中で、歓喜し、苦闘しながらも、与えられた役を演じ、働き甲斐、やり甲斐を持って、わき目もふらずに、それぞれの仕事に取り組み、打ち込んだのではないでしょうか。


ここでは、松下さんは、「週休二日制」(昭和35年)と「欧州並み賃金」(昭和42年)の例を挙げていますが、常にこのように、社員に夢、希望、目標、方針を提示し、社員を感動させながら、全社員の力を一つにして、「松下物語」を創りあげていきました。


会社衰退の責任は、社長一人にありますが、会社発展の要因は、全社員の結束にあります。松下さんは、そのことを熟知し、夢、希望、目標、方針を社員に提示し、感動物語を書き続け、全社員の心をひとつにしたのだと思います。

2025.03.15
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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