皆さんに、この際とくにお考え願いたいことは、どういう心がけで仕事の成果をあげていくかということを、深く深く検討していただきたいということであります。
ここに一応、410億円という目標をたてまして、これを実現するといたしましても、そのやり方を大きく吟味しなければならないと思います。
一番に考えなければならないことは、社会正義の線に沿って、この仕事がやれるかどうかということであります。謙虚な心で自問自答いたしまして、この道に誤りがないか、社会道徳に反しないか、また業界のためになるかということを考え、その数字が出るかどうかということです。
それを、この数字だけあげればいいんだと遮二無二に進むということであれば、私はむしろ何もやらないほうがいいと思います。そんなやり方で松下電器が繁栄しても、何がいいのかと言えるでしょう。これは明らかに、人間の道に反すると思うのです。
“何が正しいか”ということを常に検討し、また研究し、そして、この道(人間の道)に沿って、目標の数字をあげたい、というのが、われわれの念願です。
(昭和32年1月10日 経営方針発表会)
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(江口克彦のコメント)
目標の数字を達成することは大事だけれども、その達成するために、人の道に反するようなやり方、社会道徳に反するような仕事の仕方をしてはいけない。
そのようなやり方、仕方でしか、目標が達成出来ないならば、松下電器が大きくなっても、なんの価値もないと、松下幸之助さんは、この時だけでなく、折々に、社員に話をしていました。
要は、「勝てば官軍」(道理に反していても、勝った者が正しいのだという考え)で、経営、商売、仕事をしては、いけないということでしょう。
経営はもちろん、人生でも、「勝つ美学」を持ち、同時に、「勝ち方の美学」も、合わせ持つことの大切さを、改めて強く認識したいと思います。
また、政治家の方々にも、この松下幸之助さんの言うところの、「勝つことも勝ち方も、社会正義、社会道徳、人の道にかなっていなければならない」ということを、心にシッカリと収めておいてほしいと願います。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。