第11回 松下幸之助の経営心話 【当たり前のことを当たり前にやれば、必ず事は成功する】

つい先ほども、新聞記者から質問を受けたんです。「松下さん、あんたは非常に成功したと思うが、あんたの成功はどういうところにあったのか、一つ話してくれ」と。私はそれに対しまして、こういう答えをしたんであります。


それは「まあぼくの経営方針は、天地自然の法によるんだ」と申したんであります。「天地自然の法によるというのは、きみ難しいことを言うな。具体的にいうと、どういうことか」と。「具体的に言うと、“雨が降れば傘をさす”ということだ」とこういう話をしたんであります。


「人をおちょくる(からかう)ような話やないか」ということですが、自分は、そういうことを、“天地自然の法”という表現を使ったのであります。雨が降れば傘をさすというのは極めて自然の状態でありまして、暑くなれば薄着になる、寒くなれば厚着になる、これはもう誰しもその通りにやっておるんですから、いわばみんな天地自然の法に基づく生活方法をやっておられるということになろうかと思うんであります。


しかし、商売ということに入りますと、どうも天地自然の法にかなったやり方をなさらないような経営が、私はちょいちょい見受けるんであります。


これはアホみたいなことでございますが、売れば集金は、当然の話でありますが、そういうことが往々にして行われていないのを見受けるんであります。皆さん方はそんな方はいないと思いますけれども、そういう物語を聞きました時に、なるほど、これは考えればならんことだというような感じをいたしました。


(昭和35年9月20日 日経連主催 中小企業経営講座)


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


(江口克彦のコメント)


「雨が降れば傘をさす」という松下幸之助さんの言葉は、『道をひらく』では、「治に居て乱を忘れず」、「だから、常に傘の準備をしておきたい」と、いわば、非常時に備えることが大事だという趣旨で述べています。


しかし、もともとは、「経営を成功させるには、天地自然の法に従えば、成功しますよ」、「雨が降れば、人々が傘をさすことが当たり前のように、その当たり前のことをすれば、経営は必ず成功しますよ」ということであったようです。


天地自然の法というと、なにか難しいように思いますが、要は、物は上から下に落ち、水は高いところから、低いところに流れ、太陽は東から昇り、西に没する。私たちが当たり前のこととして、気にもしていない理法。その天地自然の法は、物事を生成発展させ、それに従えば、それゆえに、すべての事は成り、うまくいく。失敗することもないし、思い悩むこともない。


だから、失敗や悩みは、私心にとらわれ、我欲にとらわれて、天地自然の法に従わないからではないか。自分は、なんの知識もなく、ただただ当たり前のこと、雨が降れば傘をさすようなことをやって来たのだが、それなりに成功した。


ゆえに、経営に成功するためには、奇を衒(てら)うこともないし、策を弄することもないし、理屈に振り回されることもない。ただただ、当たり前のこと、雨が降れば、自然に傘をさすように、素直に、天地自然の法に従うことが大事ではないか、と松下さんは、言っているのだと思います。


「雨が降れば傘をさす」ように、天地自然の法に沿う「当たり前の行動」をすれば、松下さん的に言えば、意識しなくても、経営において、人生において、成功するのではないか、ということでしょうか。

2024.06.01
いいね! ツイート

投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

関連記事

企業や人の育成でお困りの方はお気軽にご相談ください

松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。