コーチング研修をしていると、時々、気になる表現を耳にします。私自身は、コーチング
を行うようになってから、違和感があって使えなくなってしまった表現です。例えば、
「相手にもっと考えさせるにはどんな質問をしたらいいですか?」、「まずやらせてみな
いとダメですよね」といった「?させる」という表現です。いわゆる「使役」の言葉です。
「使役」には、立場が上の人が下の人に対して、相手の意思を汲むことなく、「やりなさ
い」と指示をするニュアンスがあります。
「考えさせる」、「やらせる」、「話させる」、「理解させる」、「責任をとらせる」など、
相手の意思を尊重している姿勢が感じられません。相手の主体性を促すコーチングとは対
極にある表現だと感じます。ですから、「質問をして相手に考えさせる」と言っている時
点で、もうそれはコーチングではないように思うのです。
コーチングを学び進めていくと、このようなことを敏感に感じとる人が現れます。先日も、
ある管理職の方から、こんなお話をうかがいました。
「今まで、私は無意識に『?させる』と言っていたことに気がつきました。そこで、意識
的に、『?させる』と言うのをやめてみることにしました。『質問をして部下に考えさせ、
話させる』ではなく、『質問をして部下自身の考えを聴かせてもらう』といった感じです。
そうすると、不思議なことに、自然と部下の話を傾聴できるようになったんです。そうな
ると、部下のほうも自分で考えて話してくれるようになるんです」
すばらしい成果ですね。言葉を変えることで、自分自身のあり方が変わり、相手も変わった
という事例です。このように、無意識のうちに使っている言葉が、自分のあり方を決めて
いることが大いにあるように思います。
こちらの思い通りに「やらせる」という姿勢で臨むと、相手はどうしても主体的になれま
せん。相手が「やらされる」と感じることで、かえって意欲は低下し、「言いなりになりた
くない」と抵抗も起きがちです。コーチングは、相手を尊重し、相手の主体性を引き出し
ていくコミュニケーションです。「やらせる」に代表されるような「?させる」というあり
方をまず手放すことが大切ではないでしょうか。そのために、自分が使っている言葉を変
えてみることは大いに効果的だと感じます。
相手に対して、「?させる」ではなく、自分自身が「?させていただく」という言い方が
増えると、お互いに笑顔が増え、意欲が高まりそうな気がします。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。