コーチング研修をしていると、失敗事例を教えてほしいというご要望もよくいただきます。
コーチングは、どちらかと言うと、うまくいったこと、機能していることに焦点をあて、
解決思考で対話をしていきます。ですから、「失敗事例を」と言われると、「そこに焦点
をあて過ぎないほうがより効果的なコーチングができるのに」と思ったりもします。
とはいえ、ご要望にお答えしようと振り返ってみると、そう言えば、あんなこともあった
なと思い出すものです。あの時は、途中からまったく話してもらえなくなって困ったなと
か、その場から脱走されたこともあったな(高校生とのコーチングで)など様々です。
これらの失敗には一つの共通点があります。こうすると絶対にうまくいかないという要
因があるのです。それは、言葉の使い方や質問の仕方などではありません。私自身の
「あり方」がコーチでなかった時には、テキメンにうまくいかないのです。今でも深
く反省することしきりです。
例えば、なかなか前向きになれない相手をコーチングしていた時のことです。表面的には
話を聴いていても、心の内側では、だんだんこんな気持ちが湧き起こってきました。
「なぜこの人はこんなにネガティブなんだ?どうしてできない理由ばかり話すんだ?こん
な姿勢では解決するものも解決しない。それではダメだ。あなたはもっと前向きになるべ
きだ」。
そんなことを思いながらコーチングをしていると、相手は私の心の内側を見透かすように
どんどん話さなくなっていきました。「この人は自分を否定している。自分をコントロー
ルしようとしている」という気持ちをどこかで感じとるのだと思います。特に、相手が私
より年下だったりキャリアが浅かったりする場合は、なおさら敏感です。
一方、「この人は何かの理由で、今は前向きになれないのだろう。その背景に私は耳を傾
けたい。でも話したくなかったら無理に話さなくてもいいですよ。あなたには課題を解決
する力があります。私はあなたの味方ですよ」という気持ちで向かい合っていると、自然と
心を開いてくれるのを感じます。最初は、ネガティヴでも、しだいに自ら前向きになって
いきます。
コーチの「あり方」が整うと、それにふさわしい言葉も自ずと口から出てくるものです。
何を言うかの前に、「この人の可能性を信じて、この人の気持ちを尊重したい」という想
いが最も大切だと感じます。失敗事例の一つひとつを思い返してみても、「コーチングは
やり方が機能しているのではない。あり方なのだ」と実感します。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。