昭和50年の夏、松下幸之助さんから呼び出しを受けた休日。二人で話をしていると、突然に松下さんの姻戚関係にある、傍系会社のS専務がやってきた。松下さんは、「なんか用か」というと、専務は、「例の件で・・」と報告を始めた。10分程度の報告であったが、松下さんは「あんたが、いいと思うんやったら、やってみいや」ということで、報告が終わった。
そこで、専務はすぐ帰ると思ったが、何を思ったのか、私に向かって、「君、経営は難しいね。結果を出さないといけないからね。まあ、経営は結果だよ。結果を出せば、とにかく法律に触れない限り、なにをやっても、利益を上げることが大事なんだ」と言う。
私は、それを聞いて、「それはそうかもしれませんが、法律に触れなければ、なにをしてもいいというような経営はすべきではないと思います」と、私見を述べた。途端に、S専務は怒気を含んで、「君イ、経営をしたこともない者が偉そうなことを言うなよ。経営は、そんな甘っちょろいものではない。ぎりぎりで勝負しているんだよ。生意気なことを言ううな」と。しかし、その時35歳の私は、S専務に、「言われているのは、まさに、勝てば官軍という考え方です。法律に触れなくても、人道に反することはいくらでもあります。勝つ美学も大事ですが、勝ち方の美学も大事ではないですか」。「馬鹿なことを言ってるんじゃない。経営は、勝つことが大事だ」と、まあ、激論になった。
松下さんは、ベッドで横になっていたが、目をつむり、寝入った様子。そこで、二人は、激論を止め、S専務は帰っていった。松下さんは、しばらく、そのまま寝入っていたようだったが、30分ほどで目を開け、「さあ、話をしようか」と言って、S専務と私の話にはまったく関心がなかったように、たわいない会話が再開された。
それから確か1か月ほど経って、二人で話をしていると、松下さんが、「商売をするときに、結果を出せばいい、結果だけが商売や、と考えたらあかん。その仕方やな、それも大事やということやね。勝てば官軍という商売はあかんよ。結局は、失敗するで」。そうか、あの時、S専務と私の激論を聞いていたのか。やはり、私の言い分は間違っていなかったと安堵したことがあった。
経営者たる者、法律に触れるか触れないかだけではなく、それ以上に、人道に適っているかいないかを、常に心掛けることが大事だということを知っておく必要があるということである。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。