経営のやり方というものは無限にあるが、その一つの心構えとして、自力経営、自主経営ということがきわめて大切である。つまり、資金であるとか、技術の開発その他経営の各面にわたって、自力を中心としてやっていくということである。
他力の活用も時に必要であり、そのほうが効率的な場合もあるが、やはり人間はそういう状態が続くと、知らず知らずのうちに安易感が生じ、なすべきことを十分に果たさなくなってくるものである。
また、企業の体質としても、他力に頼ることが多ければ、それだけ外部の情勢の変化に影響されやすくなる。だから、資金については、原則として蓄積による自己資金を中心にしていくことが大切である。
技術にしても同じことである。やはり、みずから独自のものを開発していくという姿勢を持たなくてはならないし、むしろそのことにいかに成功するかが、企業発展の大きなカギとなってくるわけである。
自主経営ということは、そのように経営のあらゆる面にわたって自力を中心としてやっていくということである。
自力を中心でやっていく姿には、それだけ外部の信用も生まれ、求めずして他力が集まってくるということもある。これはいわば理外の理ともいうべきものかもしれないが、そういうものが世間の一つの姿なのである。
(『実践経営哲学』昭和53年初版 59頁)
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(江口克彦のコメント)
松下幸之助さんは、9歳で、大阪商人のメッカである船場(せんば)に丁稚奉公に出されます。周囲には、誰も甘えを許してくれる人はいません。自分で自分を励まし、自分で自分の道を切り拓いていく以外にありませんでした。
そのような環境のなかから、松下さんは、誰にも、どこにも頼らず、自主自立の覚悟こそが、生きていくうえで、必要不可欠な前提であると悟ったのではないかと思います。
事実、松下さんは、その経営において、国に頼む、政府・政治家に頼むということはありませんでした。そして、折りあるごとに、私に、自主自立は、経営はもちろん、人生においても大切だと、繰り返し繰り返し、話をしてくれました。
当時、PHP研究所は、松下電器に、人材、人件費、広告費などを出してもらい、まさに「おんふにだっこ」の状態。すべて松下電器に100%頼っていました。にもかかわらず、創設以来、30年間も、赤字続きでした。
松下さんから、自主自立の大切さを聞かされていた私は、経営担当責任者になって、売り上げを伸ばし、利益の確保をほぼ確実にすると、数年後には、早々に「松下電器からの独立」を決意し、実行しました。
諸先輩方から相当厳しい批判と、また、なんと、松下電器の担当責任者たちからも反対され、ついには四面楚歌になりましたが、私の決断に、ただひとり、松下幸之助さんだけは大喜びし、激励し続けてくれました。それをきっかけに、PHP研究所の経営は、社員が緊張感をもってくれ、心を合わせ、34年間、一度も前年を割ることなく、信じ難いほどの発展成長をしました。
改めて、松下さんの自主経営、自力経営の大切さ、自主自立の生き方、自分を信じて、自分を頼りにして生きることの大切さを痛感したものでした。
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松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。