NEW

第24回 松下幸之助の経営心話        【「松下幸之助哲学を一言で言えば?」と問われれば、「人間大事」と答えればいい】

先般、安田善次郎さんの話を聞いたのであります。安田善次郎という人は東京の両替商に奉公に出た人ですが、ある年限が来まして初めて、日本橋のささやかな場所に店を構えたのであります。

そして、鰹節を店頭に並べ、お客に売ったわけですが、その時どういう態度をとったかというと、これは非常に興味ある話なのですが、たくさんの鰹節が盛り上げてある、その中から色艶(いろつや)の良いものから次々に選んで、お客に渡していったというのです。

その姿を見て、けしからんと思う客はありません。お客みずからが選んでも大きいものを取るでしょうが、やはり取りにくい面もある。だから、店主みずからそれを代行してあげる。いわゆるお客が買う瞬間に、店主がお客の番頭になるということであります。

われわれが物をつくって売る場合、買う人の番頭になって選択してあげるという態度が取れれば、その商店、会社は、必ず発展、繁栄すると思うのであります。

(『松下幸之助  発想の軌跡』昭和22年5月12日 研究会での話)

※※※※※※※※※※※※※※※※

(江口克彦のコメント)

松下幸之助さんの哲学を、ひと言で言えば、「人間大事」の四文字に尽きます。

そのことは、松下さん自身が昭和57年に、「松下さんの哲学を、ひと言で言えば、どういうことか」という記者の問いに、「人間を大事にするということですな。それが根本ですわ。まあ、松下イズムがあるとすれば、それは人間を大事にするということ以外はありませんわ」(「新潮45」創刊号 97頁)と、本人が応えているのを聞けば分かります。

松下幸之助さんは、いわば、「根源の哲学」から導き出された「人間大事」に基づいて、経営を展開しました。

ですから、この「安田善次郎さんのエピソード」を語る松下さんが、「お客様の番頭になれ」とう言葉は、「お客様大事」、すなわち、「人間大事」ということでしょう。

しかし、お客様だけが「人間」ではありません。社員も人間、世間様も人間。いずれも大事。社員もお客様も世間様も大事だということです。

「人間大事」が、自分の考え、哲学の根本だと、断言することに、ですから、松下さんは、なんら躊躇(ちゅうちょ)もしていません。

「松下幸之助哲学」を問われれば、ひと言、「人間大事」と答えればいいということ。決して、「お金大事」「儲け大事」ではないということです。「人間大事」の考え、哲学に立てば、会社は、必ず発展、繁栄するということです。

松下幸之助哲学が垣間(かいま)見える、「安田善次郎さんのエピソード」ではないでしょうか。

(*ちなみに、松下幸之助さんの『人間を考える』の何回目かのゲラの最後に「いっさいは人間のために」という言葉を入れたこと(最終的には削除)、「いっさいは、人間からの出発」、「人間即大事」も思案していたことを知る人は、誰もいません。「松下イズムは、人間大事主義」ということです。)

2024.12.15
いいね! ツイート

投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

関連記事

企業や人の育成でお困りの方はお気軽にご相談ください

松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。