第7回 続・松下幸之助の経営心話      【勇気の源泉は、正しさにあり】

このあいだ、あるところで、勇気ということについて話し合ったことがあるんですよ。勇気というものは、どうして生まれるんだろうかと。


生まれながらにして勇気のある人もいるんですね。ちょっとものおじをする人もいますが、無頓着に是と思うことはツッとやるような。それを勇気があるというような見方をする人もいますね。


しかし、それは勇気には違いないけれど、そんな勇気は小さな勇気だと私は思うんです。ほんとうの勇気というものは、どういうところから生まれてくるかといったら、「これは正しいことで、せねばならんということである」と、そう信じたときに、ほんとうの勇気が湧くわけです。そうではないでしょうか。


「これは正しいことだから、どうしても、せねばならん」というときには、気が小さい人でも、非常に勇気が湧きますよ。勇気というものは、私はそんなものだと思うんですよ。これは、よくないなと思ったら、勇気は出ませんよ、実際。


ご質問の勇気はどうすれば湧いてくるのかということですが、要は、勇気の源泉は、正しいかどうかということですね。


(昭和45年11月  朝日新聞大阪本社朝日ゼミナール)


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(江口克彦のコメント)


勇気は、正しさがあれば、湧いてくると、松下幸之助さんは言っています。


それでは、正しさとは、なにか、いかなるものかということですが、まさにそれは、哲学的命題であって、それこそ、プラトン、ソクラテスをはじめ、その時代時代の哲学者が今日まで論じ続けています。


そのように形而上的に考えることも大切でしょうが、松下さんが言う正しさとは、「人間大事」が基準になっているのではないかと思います。


すなわち、ひとつのことを考えるとき、また、ひとつの行動を起こすとき、「人間大事」を前提にして「せねばならん」と考えているかどうかということ。それを前提としているならば、「正しい」と言えるということではないでしょうか。


ですから、「人間大事」をまったく考えず、「自分大事」、「お金大事」、「物大事」などという考えならば、それは「正しくない」ということになります。


そのように、「人間大事」に基づいていれば、敢然とした「勇気」が生まれてくる。「千万人と雖も吾往かん」、「せねばならん」という勇気が湧いてくる。


その「人間大事」を無視、軽視するならば、本当の「勇気」は出てこない。「勇気」の源泉は、正しさ、すなわち、「人間大事に沿っていること」ではないでしょうか。


松下幸之助さんの「勇気の源泉は、正しさにあり」という言葉は、蓋(けだ)し、名言だと思います。

2025.04.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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