経営者には、感謝の心が大事

「松下電器が大きくなったのは、自分の力によるものではない。社員の力だ。だから、社員に感謝しているし、心の中で拝んでいる」。松下幸之助さんは、たびたび、そう言っていた。「自分の力ではない」と言うのは、私からすれば、「言い過ぎだ」と思うが、松下さんから見れば、そういう思いであったのだろう。まして、蒲柳の体質で、養生しながらの経営であっただけに、その思いを強く持っていたのかもしれない。

とは言え、会社の成長、発展の大きな力は、社員の働きによるところが大きい。的確な「方針」を提示しても、社員が理解しようともせず、ソッポを向くようなことであれば、なんの成果も得られない。

あるベンチャービジネスの若い創業者が、松下さんを訪ねてきたことがあった。そのとき、松下さんは、次のように言ったことがある。

「あなたは若い。これから、自分の会社をどんどん発展させていくだろう。また、ぜひ成功してほしい。今は、率先垂範でよろしいが、従業員が千人を超えたら、率先垂範はだめですよ。千人を超えたら、社員にお願いする。そして、一万人を超えたら、社員を拝む心を持つことが大事です」。

別の場所では、松下さん自身、その人数を、多少違えて話しているから、業種や会社の歴史によって、それぞれに考えればいいようだが、要は、零細企業、小企業、中企業、大企業であろうと、経営者は「感謝の心」を持たなければならないということであろう。

「感謝」とか、「拝む心」とか、そのようなことが必要なのか、と思われるかもしれない。しかし、社員に対して「感謝」し、そして、「拝む心」は、「方針」を力強く推し進めるための絶対必要条件である。

 戦国時代の加藤清正。その家来に、飯田角兵衛なる家来がいた。「自分は、今まで、何十回となく、戦場に出たが、いつも怖くて、恐ろしい。夢中で刀を振り回す。戦場が静まり返って、ふと気がつくと、周りに死体がゴロゴロ転がっている。もう二度と戦には行くまい。本陣に戻ったら清正公に暇乞いしようと、都度思った。しかし、本陣に歩いていくと、清正公は自分をいち早く見つけ、大音声で、角兵衛!でかした!と言う。そのような繰り返しで、清正公ご存命中は、お仕え候」とある。清正は、治水等土木技術に優れていたが、多くの農民が喜んで協力したというのも、この角兵衛の話を読めば、分かる。

要は、経営者は、「感謝」と「拝む心」がなければならないということである。

2022.08.15
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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