社員に声をかける

経営者は、積極的に社員に声をかけることが大事である。松下幸之助さんは、社員に自分のほうから、よく言葉をかけていた。エレベーターの中で乗っていた女子社員に、「あんた、機嫌よう、仕事してくれてるか」などと声をかけ、「そうか、きばって、やってくれや」と言っていたときもあった。廊下を歩いているときに、顔見知りの部長などが向こうから歩いてきて、すれ違うときにも、「あんた、なにか用事で来たんか。そうか。あんじょう、やってくれや、君も忙しいやろう。えらいきばってくれてるなあ」と言ったりしていた。松下さんから声をかけられた女子社員などは、相談役(松下幸之助)から、声をかけてもらったと、喜び、また、周囲にも、「さっき、エレベーターで相談役さんから、声をかけられちゃった」と話すだろう。それを聞いた仲間たちも、相談役は、気さくな人、優しい人だと思う。また、その社員が家に帰って、話をすれば、家人も、いっぺんに、「松下幸之助ファン」になるだろう。

しかし、多くの経営者は、社員に声をかけるのは、プライドが許さないなどと思っているのか、あるいは気弱なのか、話しかけるということをしない。みすみす社員のやる気をださせる、喜びを与えるという機会をみずから捨て去っている。それでいて、どうもうちの社員は覇気がない、やる気がないなどと言う。その原因をつくっているのが自分だということが分かっていない。

そういうことだから、社員は、仕事で問題が出てきたときも、経営者に報告しにくい。経営者が、日頃、社員に声をかけていないから、社員は、経営者に報告すべきも、すぐに報告するのを躊躇(ためら)う。躊躇っているうちに、その問題が取り返しのつかないほど大きくなり、経営全体にも悪影響を及ぼすという場合が出てくる。「どうして、もっと早く報告してくれなかったのか」と激怒する。しかし、そのもとはと言えば、経営者が、日頃から、気さくに、心優しく声をかけていないからだ。責任は、経営者にある。

厳しい経営環境である。どの会社も店も、コロナでのたうち回り、ロシア・ウクライナ戦争で苦境に立たされている。経営戦略は当然、経営者として考えているだろうが、加えて、社員に声をかけ、社員の労をねぎらうひと言を言い、励ますことを、いま、この時期だからこそ、経営者は、一層心がけることが大事ではないかと思う。経営の成否は、社員の力と心の結集にあるのだ。

2022.10.15
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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