「愛嬌」のある経営者になれ

人に会う。どのような考え方か、どのような性格の人か、分からない。だから、誰でも、まず、直感的に、この人はどのような人か、第一印象で判断する。そのときの要件は、3項目。一つは、雰囲気、表情、二つ目は、身なり、服装、三つ目は、言葉遣いである。とりわけ、雰囲気、表情は、重要な印象と言える。その人の雰囲気、表情で、「人となり」が分かる。

だから、責任者は、常日頃から、いい雰囲気、いい表情、言い換えれば、松下幸之助さんの言葉で言えば、「愛嬌」のある自分づくりを心掛ける必要がある。愛嬌?などと軽んずるなかれ。軽んずる人のところに「情報」も、「仕事」も集まってはこないだろう。

松下さんが、松下政経塾を創ったとき、私は、最終選考に残った50人の一組、10人の面接官を、ウシオ電機の牛尾治朗会長と担当した。牛尾氏が、「なにを基準にしたらいいか?」と訊く。そして、「江口さん、松下さんに訊いてきてよ」と言う。同じ控室に居る松下さんに、「牛尾さんが、なにを基準に採用すればいいのか、と言っていますが」と言うと、「運の強い人。それに、愛嬌のある人を採ってくれや」と言った。牛尾氏に報告すると、「えっ?愛嬌?愛嬌を基準にするの?」と驚きの表情であった。

もともと仏教に愛敬(嬌)相という言葉がある。これは、お釈迦さまの顔のような、慈悲深く優しい表情をいうらしい。要するに誰もがそばに寄りたくなるような、魅力ある表情が、「愛嬌」なのである。

ところで、なぜ松下さんが「愛嬌」を重視したのかと言えば、「衆知」を集めるためには、それが重要だからである。当然のことだが、暗い顔、厳しい顔をした人間のところに、人は集まらない。人が集まらないということは、「情報」が集まらないということである。人が寄ってこない、情報が集まらないのは、責任者、指導者、政治家として、致命的である。それを松下さんは、経営者としての長い経験からよく知っていたと思う。

明るく振る舞う人、表情に愛嬌のある人を見ていると、誰でも話がしたくなる。その結果として、情報が集まる。そして厖大な情報量となる。格好をつけて、苦虫を噛み潰しているような表情の人は、これからのビジネス社会では、もう通用しない。だれもが、気軽に寄ってきて、「情報」を教えてくれる。伝えてくれる。膨大な情報を持った経営者が成功しないはずはない。そのためにも「愛嬌」である。笑顔である。柔和な雰囲気である。そのことを経営者は心掛けたい。

                     

2023.02.15
いいね! ツイート

投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

関連記事

企業や人の育成でお困りの方はお気軽にご相談ください

松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。