長くお付き合いいただいているクライアントさんの中に、保険会社の営業所長をなさって
いるAさんという方がいます。Aさんの会社では、キャリアアップのための異動がかなり
頻繁にあります。新しい環境に行くことは良い刺激にもなりますが、毎回、エネルギーも
必要とします。異動先の営業所メンバーとの信頼関係構築をまた一から行わなくてはなら
ないからです。
「小さな営業所だと全員で十数人くらいなのですが、必ず一人、二人はいるんです。心を
開こうとしない所員が。朝礼で私が話している時も絶対に顔を上げない。挨拶をしても、
目を合わせない。ペコッと頭を下げるだけ。面談をしても、『はい、わかりました』と
『別に大丈夫です』くらいしか言わない。何を考えているのかよくわからない・・・」
Aさんとのコーチングでは、そんなメンバーとどう関わるかがけっこう深刻なテーマとし
てよく挙がっていました。ところが、3つ目の営業所に異動してきて半年程経ち、何か思
うところがあったようでした。
「私、もう開き直って腹を括ったんです。『あなたが私を営業所長として認めていなく
ても、私はあなたを大切な所員と思って向き合う』って。相手の反応はもう気にしないこ
とにしました。顔を見れば、『〇〇さん、おはようございます』、『〇〇さん、寒いです
ね』、『〇〇さん、気をつけて行ってらっしゃい』、『〇〇さん、甘いもの好きですか?
』、『〇〇さん、週報いつも出してくださってありがとうございます』と、とにかく名前
を呼んで、声をかけまくるんです。『アホか?あの営業所長』と思われてもいい。『でも
私は〇〇さんのことが大好きなんだぁ!』という気持ちでやってるんです」
そして、ついに、Aさんは手応えを掴まれたのです。
「私、人ってやっぱりすごいなって思うんです。どんな人にも心はあるなって。心がある
から届くんです。投げかけ続けると必ず返ってくるようになるものですよね。〇〇さんが
私の名前を呼んで話しかけてくれるようになったんですよ!提案してくれるようになった
んですよ!」
Aさんのこの言葉は、対人関係の真髄だなと感じます。相手がどうであれ、相手に肯定的
な投げかけを続けたAさんの執念を心から敬服します。異動のたびに味わっていた忸怩た
る想いが信念に変わった瞬間だったのだと思います。
「私、〇〇さんのおかげで、自信がつきました。もうどこに異動しても大丈夫!という気
持ちです。投げかけ続ければ怖いものなし!です」
対人関係に悩むすべての皆さんにお伝えしたいお話だと思いましたので、Aさんのご許可
をいただき、ご紹介させていただきました。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。