「普通にやっていてもいまいち効果が出ない相手がいるんですけど、もっと高度なコーチ
ングを学ぶことはできますか?」といったご質問をいただくことがあります。本人はとて
も真剣にコーチングに取り組み、相手と向き合おうとされているのですが、相手の本音を
引き出せていないように感じるそうです。
コーチングの勉強会で、コーチングの練習をしていた時にも、ある会社のAさんという管
理職の方から同様のご質問をいただきました。
コーチングの練習は、参加者同士が、コーチ役、コーチングを受ける役、観察者役になっ
て、お互いのコーチングに対してフィードバックをし合う形で進めます。
「私の質問の仕方が悪いのでしょうか?もっとGROWモデルのゴールの部分を深掘りし
たほうが気づきにつながるのでしょうか?」と、熱心に勉強されている人ほど、ご自身の
コーチングを専門的に分析されています。
ところが、観察者役だった人からこんな感想が出ました。「Aさんってコーチ役の時、ロ
ボットみたいですよね。AIが話を聴いているのかなと感じました」。なかなか率直なフ
ィードバックです。共に学び合う仲間は、相手の成長を願って、あえて感じたことをその
まま伝えますが、言われた本人も「え?」と絶句されていました。
「Aさん、さっき休憩時間に私たちとしゃべっていた時、すごく良い顔で笑っていました
よね。でも、今のコーチングでは、ずっと無表情でAさんの感情が伝わってきませんでし
た。何かロボットが尋問している印象で。あんなに良い表情をされるのに、もったいない
ですよ。笑顔で、もう少しうなずきを大きくするだけで、〇〇さんのコーチングってだい
ぶ変わると思うんです」。
観察者役からのこのフィードバックは、シンプルで的を射ていました。相手を応援する気
持ちで伝えられるフィードバックは、案外、耳の痛いことでも素直に受けいれられるもの
です。その日から、Aさんは質問の仕方よりも表情に意識を向けることにしたそうです。
すると、相手との距離感が変わってきたように感じるとおっしゃっていました。
勉強すればするほど、熱心であればあるほど、私たちは、つい高度なテクニックややり方に
意識が向きがちです。「もっと効果的な方法があるのではないか?」と探求するのはとて
もすばらしいことです。しかし、最も基本的なところを脇に置いてしまっては、何も機能
しないこともあるのです。最も効果的なこととは、実はとてもシンプルで基本的なことな
のだと思います。そんなことをいつも共に学び合う皆さんから教えていただいています。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。