「コーチングはその人を丸ごと扱う」とは、プロコーチとしてのトレーニングを受け始
めた頃に教わった言葉です。当時は、あまりピン!ときませんでしたが、20年以上、
コーチングをしていると、実感を伴って、「その通りだな」と思うことがあります。
例えば、「我が社をどう発展させていくか」といったテーマでコーチングを受けている
経営者の方が、いつも仕事の話だけしているのかというとそんなことはありません。
時には、家族の話になったり、趣味のゴルフの話になったりします。「こんなこと、
誰にも言ったことがないので、ここだけの話に」として聴かせていただいた話は山の
ようにあります。
コーチングのたびに、うまくいっていない仕事の話を延々とされる経営者の方が、あ
る時、こんなことをおっしゃいました。
「この時間にする話ではないとは思うのですが、ずっと気になっていることがあって」。
「どうぞ、この場は、〇〇さんが話したいことを話す場ですから、気になっているこ
とがあれば何でもお話しください」とお伝えしました。
ご本人の許可をいただいて、概要だけご紹介しますと、関係がこじれて、ほとんど口
を聞かなくなってしまったお子さんについてのお話でした。「本当は、自分も素直に
なって歩み寄りたいんです。子どもと話をしたいんです」と話されていました。
それから1ヶ月後、「言葉に出したら、素直に子どもに歩み寄れました。数年ぶりに、
腹を割って話せた気がします。すっきりしました」との報告がありました。それから
です。この方の仕事が順調に進み始めました。滞っていた課題が次々と解決し、目標
数値が達成されるようになったのです。
一見、「仕事とは関係ない」と思われる話でも、本人にとっては、非常に大切で深刻
なことがあります。そのことがずっと気がかりで、パイプの詰まりになっているよう
なことがあるのです。一度、言葉に出して、その気がかりをアウトプットしてみるだけでも、
少し詰まりが取れることもあります。
「直接関係ない」ことであっても、その人の判断力や行動力に影響を与えていること
は往々にしてあるものです。
目先のテーマだけでなく、その人が抱えるテーマをトータルに扱うことの効果を感じ
ます。昨今、なかなかプライベートなことにまで踏み込みにくくなった風潮はありま
す。それでも、目に見えているその人のパフォーマンスの裏には、その人なりのさま
ざまな背景があることを忘れてはいけないように思います。そして、「ここだけの話」
をしてもらえる存在として、信頼を築ける自分でありたいと思います。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。