社長のひと言が大事

人間というものは、まことに複雑微妙。会社には、その人間が集まるのだから、性格も考え方も能力も、それぞれに異なるさまざまな人がいる。

人間は同じ一つのことに対して、人それぞれの違った反応を示す面がある。たとえば、社長が社員を集めて、「みんな、頑張ってくれ」と言ったとき、その受け取り方は人さまざまである。「そうだ、頑張ろう」と、そのまま受け取る社員もいれば、「オレは、いつも、頑張ってやっている。これ以上に頑張れというのか」と、ソッポを向く社員もいる。

ときに、善意の言動も、そのまま受け止められるとは限らない。あるセミナーで、研修終了証を、研修責任者が手渡すとき、受講生一人ひとりと、欧米では一般的に行われているハグ(hug抱擁)をして、祝していた。多くの人が、喜んで彼のハグを受け入れ、笑顔を返していたが、一人の女性が、セクハラだと訴えてきたことがあった。随分と人によって、受けとめ方が違うものだなと思い、改めて、人間というものは、まことに複雑微妙、千差万別だと感じたことがあった。

とは言え、人間の心の動きには、そういう千差万別の複雑さ、多様さの中にも、おおむね誰にも共通する、本質的要素があるように思う。たとえば、誰でもほめられれば嬉しくなる。また、誰もが他人から認められたいと願っているし、努力が報いられれば、満足する。また、自分の能力、持ち味を発揮するような機会が与えられれば、喜びを感じる。逆に、納得できない叱られ方をすれば、悲しくなり、無視されれば、絶望的にさえなる。また、自分の能力が発揮できないとなれば、寂しくなり、努力が報われなければ、涙する。このようなことは、人間誰でも共通なことであり、また、本質的性向でもあろうかと思う。

だから、社長が自分の期待通りに社員を動かすことを願うのであれば、そのような人間の本質的性向を、しっかりと、十分に把握して、発するひと言を大切にしなければならない。そうであってこそ、社員一人ひとりを活かし、嬉々として仕事に取り組ませることが出来るのではないか。松下幸之助さんの言葉だが、「羊飼いが一人で、羊の一群をうまく動かしているのは、羊の本質的性向を把握しているからだ」があるが、それと同じではあるまいか。。

社長に限らず、責任者の立場にあるものは、人間の本質的性向を理解したうえで、「社長のひと言」を大事にしたいということである。

2023.10.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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