串焼きの「串」があるか

ある経営者塾での質疑応答のときに、学校経営者が、「ウチの学校は、4校を統合して今日に至っているが、経験や価値観が様々で、共通行動が出来ず、子供の指導観もバラバラ。どうやって、同じ方向に揃えていったらいいのか」という質問があった。

そこで、「あなたの学校に、なんのために教育活動をしているのか。そのような、学校経営理念があるか」と問うと、「あると思うが、明確なものはない」と言う。そこで、私は、「人間は、それぞれの個性があって、バラバラな存在だと思う。だから、そのバラバラでは困るという考えを持たないほうがいい。この世に一種類の花しかないということであれば、花もつまらないものとなるが、さまざまな花があるから、桜が美しい、百合はかわいい、薔薇はきれいだということになる。だから、あなたの学校の先生方が、バラバラであるということは、むしろ、いいことだ。それがまた、自然でもあると思う。

しかし、同じ目標に向かって進んでくれないのは、学校としては困るだろう。困るけれど、それは、明確で強固な学校経営理念がないからではないか。そこに、問題があると思う。学校経営理念、すなわち、なぜ、この学校を創ったのか、なぜ、4校を統合したのか、学校をどのような方向にもっていきたいのか。どのような子供たちに育てていきたいのかなどなど、そういうことを明確にし、明文化し、それを提示し、かつ徹底することが大事。いわば、“串焼きの串”を作ることが大事ではないか。ネギがあり、鶏肉があり、また、それぞれはバラバラであるが、それぞれはそのままに、しかし、串を刺し貫くことで、“一本の串焼き”が出来上がる。

だから、バラバラだ、困ったと、そこに目をやるよりも、バラバラを認めて、そのバラバラをまとめる“串”を明確にすることにしたらどうか。その“串”が学校経営理念というものだ」という話をした。

企業の経営でも同じこと。同じ人材、同じような人材を集めるより、さまざまな個性、様々な能力を持った人材を擁する企業のほうが強いという考えは、松下幸之助さんの考えである。だから、松下電器には、多彩な、個性の強い幹部社員が多かった。いわば、バラバラであったが、そういう個性というか、癖のある人材を、松下さんがまとめ上げ、危機のとき、そういう幹部社員が一つにまとまって事態に対応したのは、一にかかって、松下さんの経営理念、ここでいう「串」によるところが大きいと思う。

とにかく、経営者が正しい経営理念を確立し貫くこと。そしてその経営理念を社員に徹底的に浸透させること。そこに、バラバラな社員を一つにする基本があるということである。

2023.07.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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