人間は偉大

松下幸之助さんの書籍は、数十冊に及ぶ。名古屋の講演の後、質疑応答に時、幾人かが挙手をして、松下さんは、一つひとつ丁寧に答えていた。そのうちの一人が質問した。「松下先生は、ご多忙にもかかわらず、よく本を出されますね。いつお書きになるのでしょうか」と。すると、松下さんが笑いながら、「私が、要点を5分も話せば、それで他の人が一冊の本にしてくれるんですわ。時間は、かかりませんわ」と言って、会場を爆笑させたことがある。実際に、松下幸之助本は、そのようにして、出版された。

だから、それぞれの本のポイントは、松下さんの考えだから、それなりに、「松下幸之助の考え」として理解して頂いたらいいと思うが、尾びれ背びれの部分は、松下さんの言葉として、とりわけ、引用、また、話をされないほうがいいと思う。

ただし、次の二冊と言うか、二種類は、「生身の松下幸之助」、「松下幸之助の理念・哲学」として、捉えて頂いていい。それは、『松下幸之助発言全集43巻』と、『人間を考える―人間観・人間道』である。この二種類は、どこを引用されても、「松下幸之助」。『全集』は、松下さんの講演したものを、そのまま載せているから、「松下さんに間違いない」と言える。

『人間を考える』は、20数年をかけて、文字通り、「命を懸けて」、自身で読み込み修正を繰り返し、一字一句推敲を重ねているから、この松下本も、どこを引用されても、「松下幸之助」。

特に、『人間を考える』は、松下さんの哲学、いわば、「根源の哲学」である。松下幸之助さん自身、「人間を大事にする。これが根本だ。松下イズム(注:松下哲学)と呼ばれるものがあるとすれば、それは、人間を大事にすることだという以外にない。」(「新潮45」創刊号 1982年)と言っている。

要は、「松下哲学の根本は、人間大事だ」と言っているのである。「人間は、つまらぬ存在ではない。いや、逆に、偉大な存在だ」という、「人間即偉大」と言う考えは、まさに、今日、全人類が、とりわけ、世界の指導者が持つべきであろう。「人間は偉大」となれば、戦争も、争いも、殺人も、怒私粗傲邪も起こらない。平和裡に事が進んでいく。経営、また然り。

今の世は、釈迦の生き、考えた時代と異なる。「四門出遊」で見た光景とは違う。キリストの生き、憂えた時代と異なる。「砂漠極貧」で見た光景とは違う。罪業深重の凡夫でもないし、罪の子でもない。

いつまでも、2000年、3000年前の人間観を持ち続けていれば、人類は破滅する、というのが、松下さんの危機感であり、人間観であったと思う。

2023.04.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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