昭和51年4月23日に、経営担当責任者になったことは、既に記述したと思う。その直後であるが、出版した単行本は、すべて報告せよと、松下幸之助さんから指示。だから、毎月、その月に出版する見本の単行本を報告していた。もちろん、増刷する単行本も報告した。当時は、月に数点だから、たかが知れている。全部を持って行った。
ある時、7、8点に持参した中に、扇谷正造先生に書いて頂いた、『桃太郎の教訓』の十数刷、増刷した単行本があった。扇谷先生は、「週刊朝日」の編集長などを経て、評論家として活躍、まさに名評論家の名をほしいままにしていた著名な先生。同書を松下さんに報告すると、「桃太郎の教訓?それは、なにか」と言う。その本は、全頁、桃太郎の話ではなく、扇谷先生が、経営コンサルタントの田辺昇一氏の言葉を、扇谷流に解釈した第一部の篇名を書名にしたものだが、桃太郎の教訓とは?という松下さんの問いだから、端的に説明した。
「桃太郎が、キジだけ3羽とか、サルだけ3匹、イヌだけ3頭ではなく、それぞれ異なった、キジとサルとイヌとを従えて、鬼ヶ島に鬼征伐に行ったのは、キジは情報、サルは知恵(企画)、イヌは行動を意味している。日本の企業は、行動と知恵はあるが、情報がないと、そういうことです」と応えると、松下さんは、「なるほどな、情報が足らんと言うことは、その通りやな。それに、桃太郎が、さまざまなお供(とも)を連れて行ったことも面白いな。会社でもいろいろな人がいて、会社はいろいろな場面に対応できる。そういう会社は強いんや」と話してくれた。
この桃太郎の話が、よほど印象深かったのか、その後、私は、松下電器からの「全員異動」をやめ、「独自採用」を実施したが、その報告をするたびに、2、3年にわたって、「そうか、採用試験するのか。けど、キミ、自分の好みの者ばかり採るなや。桃太郎でも、キジやサルとかイヌとか、いろいろ連れて行ってるわな。だから、鬼を退治することができたんや。いろいろな人材を採れや」と言うようになった。
この松下さんの言葉は、桃太郎の話からではないだろう。松下さんが松下さんの経験と結果からだと思う。実際、松下電器には、さまざまな、いわば、「珍獣奇獣の幹部」がいた。その幹部たちを、その場面、場面に応じて、起用していた。それが、松下電器の成長発展につながったのだろう。
ダイバシティ(多様性)の時代。これからますます、キジ、サル、イヌだけでなく、タヌキもパンダもキリンもコアラも必要になるだろう。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。