連載を始めるにあたり

松下幸之助さんと私の様子は、拙著『松下幸之助の神言葉50』(アスコム社刊)のまえがきをお読み頂ければ、お分かりいただけると思う。松下さん71歳から逝去する94歳までの23年間、他人様には想像がつかない「上司と部下の関係」であったということは確か。最近、当時の松下電器の副社長から手紙をもらったが、その中にも、「相談役様と貴殿は、実に、不思議で貴重な関係であった」というような言葉が書かれている。

確かに、経営の神様と書生ごとき私の関係は、私自身も未だに振り返って不思議に思うときがある。なぜ、あれほどに、私に声をかけてくれたのか、なぜ、早朝深夜、休日など構わず、私を呼び出し、さまざまなことを話してくれたのか。時に大笑いし、時に涙を流し、時に私事まで話してくれたのか。

それはともかく、松下幸之助さんと話している時は、私にとって、至福のひと時であった。もちろん、烈火の如く、叱責されたことはあるが、それも含めて、いい思い出となっている。

これから、松下さんのエピソードを思い出すままに、連載していきたいと思う。ただ、わずかばかりの日時、松下さんと会話をしただけで、「松下幸之助」を語る人たちがいるが、その人たちと同列にして、私の、この連載をお読みいただくことだけはご勘弁いただきたい。言葉遊びをし、一つの松下さんの言葉だけで、「松下幸之助のすべて」を語る人が、とりわけこの頃多くなったのには、寂しさを感じる。「松下さんを真に語ることができる人は、江口さんしかいませんねえ」と、ある経営評論家が言っていたが、真に語ることができるかどうかは自信はないが、松下さんと交わした会話の、公表できる範囲で、具体的に連載してみようと思う。 朝日田雄人氏は、古くからの畏友である。彼の人となりは、熟知している。『論語』に、「孔先生(孔子)は、穏やかで、素直で、丁寧で、つつましく、思いやりがある方だ」(子貢曰、夫子温良恭倹譲以得之)とある。さまざまな『論語』の本を読み続けているが、この一節を読むたびに、朝日田氏のことを思い浮かべる。同氏が、孔子に匹敵するかどうかは別にして、確かに、彼は、温和であり、真っ直ぐであり、謙虚であり、つつましく、思いやり、配慮があると感じる。朝日田氏と接していると、こちらの心が温かく、和む。その彼からの依頼である。喜んで、この連載をお引き受けした。読者の方々の期待に背かない連載にしたいと思っている。

2022.01.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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