中小企業の経営者ほど、私は羨望にたえないものはないと私は思うんであります。私がなぜそういうことを言うかというと、私も中小企業の過程をとおってまいりました。
小企業から中企業、中々小企業という過程をとおってまいりました。100人前後使っている時に、同じ同業者に1万人も使ってる会社もありました。競争ですわ、これは。
私はその時に、「必ずうちは勝つ」と言うた、従業員に。「なんででんねん」とこう言うから、「うちが、(例えば)これを今、考えようと思うて、それを考えた時には、すぐあした製造ができるやろ。私が言うたら、きみも「よっしゃ」と言うて製造するやろ。早いやないか。
何々大会社は社長がそういうても、それを製造するのは半期先や。だんだん、だんだん、だんだんと言ってから、半期も先にようやく製造するのや。半期遅れるやないか。
うちは即決やれるやないか。それだけで、もう、うちが勝つから、きみ、安心せえ」と言うたら、「そらそうだんな」とこう言うんです。で、そのとおりになったわけです、早く言えば。
しかし、今(松下電器)は、そうはいきません。だから、ほんとうに人生を味わい、ほんとうに喜びを味わい、ほんとうに生きがいを味わうということは、中小企業の間にこそ、それが味わえるもんであると思うんであります。
それをそう思わない人は、タイの刺身を食べていながら、味を知らないという人と一緒やと私は思うんであります。
(昭和37年12月 大分県庁における中小企業特別講演会)
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(江口克彦のコメント)
かって、ある大学教授が、某財団の理事長に就任したとき、決済書のハンコが13個も押されていた、その多さに驚いたと言ったことがありました。
それを聞いていた、ある大企業の役員が、別に多くはありませんよ、うちなんか多いときは、20数個のときがありますと応じて、その教授を仰天させ、加えて、そのような決済書が一年かけて社内を回ることもあると付け加えると、教授は、椅子から滑り落ちたことがあります。
経営は、合理化(Rationalization)、迅速化(Speeding up)、成長戦略(Growth strategy)の3項目を、いかに取り込んでいくかに尽きます。言うなれば、いかに「RSGサイクル」を素早く回していくかが、経営を成功させる要因であると言えます。
要は、合理化とは、徹底的にムダを省くこと、迅速化とは、決済処理、事務処理等のスピード化であり、成長戦略とは、常に次なる事業戦略、事業展開の策を持ち、講じていることです。
中小企業もこの「RSGサイクル」を意識すれば、生産性もあがり、必ず大企業に負けない成果をあげることができますが、松下幸之助さんは、ここでは、とりわけ、中小企業は、 S、すなわち、スピード化、迅速化においては、大企業を圧倒することができる。この Sこそ、中小企業の最強の武器であると言っています。
確かに、「打てば響くこと」が、期せずして可能なのは、零細企業、中小企業でしょう。その決定、決断、実行の迅速さ、スピードで、松下電器は、大企業になったと言っても過言ではないと思います。
松下さんは、私に、時折、別の理由をあげて、「従業員が300人ぐらいのときがいっとう面白かった」と言っていましたが、確かに、自分の指示したことが、いわば、「翌日」分かること、確認することが出来たのも、実に楽しかったことではなかったか。また、そのスピード、素早い対応が、「松下電器の原点」であったのではなかったのか。
松下さんが、「中小企業は、大企業にスピード、迅速な対応で勝てる」というのは、決して中小企業の人たち向けへの巧言ではなく、個人企業→零細企業→中小企業→大企業の過程を経てきた「実感」であると言えるのではないでしょうか。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。