「最近は、言葉づかいに気をつけるようにしているけれど、どうしても言葉が強くなって
しまう場面がある」というお話を聴くことがあります。
状況を詳しく聴くと、確かに非常に緊急性が高い場面では、それも致し方ないのではと
思わされることもあります。
例えば、医療現場では、1分、1秒を争う判断と行動が求められます。特に救命救急の現
場では、時に怒号が飛ぶこともあるそうです。
「違う!そこじゃない!」、「早く!もたもたするな!」。緊迫した場面でどなられると、
さらに萎縮しそうな気がします。ところが「目の前の命を救いたい」一心で仕事をして
いる人たちは、そんなことをいちいち気にしていられないと言います。
「私が先生からどなられることなんてどうでも良いこと。それよりも患者様を助けること
のほうが大切」と言い切る看護師さんの姿勢には頭が下がります。目的が非常に明確で使
命感を持って仕事をしている人にとっては意識を向けるべきところはそこではないのか
もしれません。
「何に向かってこの仕事をしているのか」「何が今一番大事なのか」といった仕事の目
的を意識できている人は強いと感じます。
軽々にパワハラと言わない人は、その意識づけができているのでしょう。だからと言って、
目的意識さえ持ってもらえたら、人格を否定するような言葉を浴びせてもいいというわけ
では決してありません。やはり、人として、言い方はわきまえたいところです。
そんな折、外科医である私の友人が、拙著を読んでくれて頭を抱えていました。
「この本に出てくる悪い例は全部自分のことだ。使っちゃいけない言葉ばかり言っていて
反省させられた。でも、自分はパワハラ委員会に呼び出されたことは一度もない。他の医
師からは『どうしてあんなひどいことを言っているのに、お前はパワハラと言われないん
だ?』と不思議がられる」と言うのです。
さらに聴いていくと、彼がパワハラと言われない背景に思い至りました。きつい言葉以上
に、日頃からスタッフに感謝と労いの言葉を意識的にかけるようにしていると言うのです。
手術中はつい語気が荒くなりますが、手術が終われば、必ず「ありがとう」「お疲れ様」
「今日もおかげで助かったよ」などの言葉を忘れないのだそうです。
緊急時には、どうしても強く言わざるを得ない職場もあるかもしれません。だからこそ、
緊急時以外の日常のフォローに重点を置く必要があるのだと感じます。日頃から、相手を
尊重する肯定的な関わりを積み重ねておくと、お互いに本来の目的にそった仕事ができるよ
うに思います。パワハラと言うほうも言われるほうもやはり気分は良くないものです。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。