第3回 松下幸之助の経営心話 【人使いのコツは、誠心誠意と相手の長所を見ること】

人使いのコツを話せということですが、人を使うということにつきましては、私は、やっぱり誠心誠意以外ないと思うんです。私は、そういうように考えて、その人と接することが大事やと思うんです。


それとともに、その人の長所を見ること。これも大事やと。太閤秀吉と明智光秀とがよく対称されるのですが、秀吉は信長の長所を見ていたんですね、あれは。


光秀も、非常に誠実な人だと聞いていますが、常に信長の欠点を見て、欠点を是正してあげようとした。


信長にしてみると、どっちが嬉しいでしょうか。それはよく意見してくれることも、嬉しいと思うべきところ、信長はそう思わなかったんですな。えらいゴチャゴチャ言うヤツやなあと、こう思ったんでしょうな。


けれども、秀吉は信長に共鳴して、あんた偉いですよというようなものですわ。(笑)これは、お上手で言うのではなく、信長の長所が目につくから、そうなるんですね。


それぞれの従業員にも長所も短所もある。短所を見るとこっちも頭痛むし、その人も指摘されればイヤになります。しかし、その人の長所を見ると「あいつは偉いヤツやなあ。おもろいヤツやなあ、あいつ」とこうなりますわ。ということでやれば、その人も知らず識らず一所懸命働く(笑)。


そうでありますから、一つは、誠心誠意をもって、その人と接すること、いま一つは、努めてその長所を見ること。まあ、そうすると、多くの人が使えるでしょうな。


(昭和38年11月8日  東海銀行経営相談所経営講演会)


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(江口克彦のコメント)


松下幸之助さんは、人使いが上手いと、よく言われていました。その人使いのコツを質問されたときの松下さんの答えです。


ああ、なんだ、誠心誠意と長所を見ることか、それなら、自分も思っているし、人にも話をしている、という人もいると思います。


しかし、ならば、実際に実行して、あなたは人使いが上手いと言われているでしょうか。口舌の徒になっていないでしょうか。実際に実行していれば、多くの人、多くの従業員が、あなたについてきている。


松下幸之助さんは、誰に対しても、「上から目線」で、ものを言うことは、なかった。実際に、誰に対しても、そう、例えば、新入社員にも幹部にも、あるいは、地方紙の若い記者にも全国紙の局長にも、まことに誠実に、まことに誠心誠意、接し話をしていました。


誰かと話したあとでも、「今の人は、えらい物知りな人やったな」、「若いのに、いろいろ勉強になったな」と感じ入っていました。


誠心誠意と相手の長所を見るということは、自分が実際に、やっていたそのままを、松下さんは、ここで話しています。だから、当たり前のような話も、説得力があり、なるほどと改めて思うのでしょうか。


人使いのコツ、人使いの上手い方法などという分厚いビジネス本があり、また、そのような演題で、いくつも挙げて講演する人もいるようですが、案外、この二つだけでいいかもしれません。実際に、この二つで、松下幸之助さんは、20万人の社員を使っていたのですから、早い話。

2024.02.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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