人使いのコツを話せということですが、人を使うということにつきましては、私は、やっぱり誠心誠意以外ないと思うんです。私は、そういうように考えて、その人と接することが大事やと思うんです。
それとともに、その人の長所を見ること。これも大事やと。太閤秀吉と明智光秀とがよく対称されるのですが、秀吉は信長の長所を見ていたんですね、あれは。
光秀も、非常に誠実な人だと聞いていますが、常に信長の欠点を見て、欠点を是正してあげようとした。
信長にしてみると、どっちが嬉しいでしょうか。それはよく意見してくれることも、嬉しいと思うべきところ、信長はそう思わなかったんですな。えらいゴチャゴチャ言うヤツやなあと、こう思ったんでしょうな。
けれども、秀吉は信長に共鳴して、あんた偉いですよというようなものですわ。(笑)これは、お上手で言うのではなく、信長の長所が目につくから、そうなるんですね。
それぞれの従業員にも長所も短所もある。短所を見るとこっちも頭痛むし、その人も指摘されればイヤになります。しかし、その人の長所を見ると「あいつは偉いヤツやなあ。おもろいヤツやなあ、あいつ」とこうなりますわ。ということでやれば、その人も知らず識らず一所懸命働く(笑)。
そうでありますから、一つは、誠心誠意をもって、その人と接すること、いま一つは、努めてその長所を見ること。まあ、そうすると、多くの人が使えるでしょうな。
(昭和38年11月8日 東海銀行経営相談所経営講演会)
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(江口克彦のコメント)
松下幸之助さんは、人使いが上手いと、よく言われていました。その人使いのコツを質問されたときの松下さんの答えです。
ああ、なんだ、誠心誠意と長所を見ることか、それなら、自分も思っているし、人にも話をしている、という人もいると思います。
しかし、ならば、実際に実行して、あなたは人使いが上手いと言われているでしょうか。口舌の徒になっていないでしょうか。実際に実行していれば、多くの人、多くの従業員が、あなたについてきている。
松下幸之助さんは、誰に対しても、「上から目線」で、ものを言うことは、なかった。実際に、誰に対しても、そう、例えば、新入社員にも幹部にも、あるいは、地方紙の若い記者にも全国紙の局長にも、まことに誠実に、まことに誠心誠意、接し話をしていました。
誰かと話したあとでも、「今の人は、えらい物知りな人やったな」、「若いのに、いろいろ勉強になったな」と感じ入っていました。
誠心誠意と相手の長所を見るということは、自分が実際に、やっていたそのままを、松下さんは、ここで話しています。だから、当たり前のような話も、説得力があり、なるほどと改めて思うのでしょうか。
人使いのコツ、人使いの上手い方法などという分厚いビジネス本があり、また、そのような演題で、いくつも挙げて講演する人もいるようですが、案外、この二つだけでいいかもしれません。実際に、この二つで、松下幸之助さんは、20万人の社員を使っていたのですから、早い話。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。