松下幸之助さんは、「お客様づくり」をしなかった、などと言うと、「商売の神様がそんなことはないだろう」と思われるかもしれない。もちろん、お客様を大事にしたことは確か。しかし、それだけでは、ゼロから出発した会社を、一代にして、世界的企業につくり上げるのはムリ。それを実現することが出来たのは、「お客様づくり」以上に、「ファンづくり」したからではないか。
その側(そば)で仕事をするようになって4年目ほどの頃。夕方に、知らない人から電話がかかってきた。「ご用件は?」と尋ねると、「松下さんに、私がたいへん感激しているということを伝えてほしいんだ」。そして、「これから行くから」と言う。
その人が来たのは、就業時間が過ぎた7時頃。小さな会社の経営者であったが、応接間の椅子に座るやいなや、熱心に話し始めた。
数日前、夫婦と東京駅から新幹線に乗ると、斜め前に松下さんが座っていた。「松下さんは、あこがれの人。ひと言でも言葉を交わしたい」と、奥さんに話をすると、「あんたが、誰か分からないのに、松下さんが、応じてくれるはずもないし、大勢のなかで、みっともないことはやめて」と。「確かに、そうだ」と一旦は諦めたが、ちょっとでもいいから言葉を交わしたい。そう言っていたら、「家内が、そんなに松下さんと話したいなら、ミカンを買ってきて、お渡ししたら。ありがとうぐらいは言ってくれるでしょう」。ミカンを買って、松下さんに手渡した。松下さんは、一瞬驚いた表情をしたそうだが、丁重にお礼を言って受けとった。
「松下さんは、京都駅で、降りられましてね」。その人は、新大阪で降りる。座席に座っていると、「松下さんが、私たちの席に来て、先ほどのミカン、ありがとう。おいしくいただきました、とお礼を言われるんですよ。そして、松下さんはホームに降りて、私たちに窓越しに頭を下げてくれた。しかも、新幹線が動き出すまで、私たちを見送ってくれた。ミカンを差し上げた。それだけですよ。感激しました」。
「私は会社に帰ると、電器屋を呼び、この会社と我が家にある電器製品という電器製品を、全部ナショナルに替えてくれと指示して、全部替えました」と言う。そのようなエピソードが、いくつもある。
このように、「お客さまづくり」だけならば、平凡な成長拡大で終わる。しかし、「ファンづくり」によって、驚異的成長を遂げるということは、知っておいたほうがいいかもしれない。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。