「社員稼業」の意識を持つ

仕方なく仕事をやるのでは、良い仕事もできないし、第一自分が苦痛ではないか。松下幸之助さんの会社も大きくなってくると、やはりそのような姿が散見され始めた。そのようなとき、松下さんが言い始めた言葉が「社員稼業」である。

「社員稼業」とは「自分は“社員”という稼業の経営者」「自分の机を一つの店とした経営者」という意味である。会社の一員という立場を、もう一歩進めて、社員という身分ではあるが、「朝日田商店の社長」をやっているんだと考えてみてはどうかということである。

松下さんは、社員稼業の話をするときに、うどん屋さん、そば屋さんの例を挙げた。例えば、うどん屋さんにしても、そば屋さんにしても、独立して一つの稼業を営んでいる人は、自分の事業として物事を判断し、そこに一生懸命打ち込んでいる。ところが、そこそこの会社やお店の社員になると、そのような独立経営者の立場、自分の才能や判断において、仕事を自由に推進していける立場に立てる人は少ない。ついつい与えられた仕事を無難にこなせばいいというような安易な気持ちになりやすい。

そこで、松下さんは、社員に「自分は社員稼業という一つの独立経営体の主人公であり経営者である」という心意気で仕事に取り組むことができないか、と提案したのである。そのような考えに徹することができれば、働く喜びを味わえ、辛いことも乗り越えられるし、自分の稼業が繁栄していく喜びを嚙みしめることができるのではないか。松下さんは「最終的には、係は係長、課は課長、部は部長、会社は社長一人の責任だ」と説きつつも、「社員一人一人もまた、自分の仕事に対する責任者である」と話をした。換言すれば一人一人が「社員稼業の主人公」、ひとりひとりが、社員としての身分で、「机をひとつの店」にして、責任者の自覚に立つことを呼びかけたのである。

それが、「社員稼業」である。与えられた仕事も、与えられた仕事ではないようにする。与えられた仕事に、なにか自分で考えたものをプラスしていく。そこに主体性が生まれる。そうなれば、仕事が面白くなる。上司も、そのような仕事をすれば、感心し、頼ってくるようになる。「社員稼業」が繁盛するというわけだ。繁盛すれば、大きな仕事が舞い込んでくる。信頼され、頼りにされ、気がつけば、社長の椅子に座っている自分を発見して驚く。

経営者は、社員稼業の精神を持った社員を一人でも多く育てるべきであろう。

                       

2022.09.01
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投稿者

江口 克彦

講師 江口 克彦

松下幸之助のもとで23年間、直接指導を受ける。 現在、経営者塾を主宰して、松下幸之助の経営哲学の講義を続けている。札幌の「松翁会」、名古屋の「壷中の会」など全国数ヶ所で行われている。            内閣府 沖縄新世代経営者塾 塾長、憲法円卓会議 座長、内閣府 イノベーション25戦略会議 委員、内閣総理大臣諮問機関経済審議会 特別委員、松下電器産業株式会社 理事等を歴任。

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