先日、札幌市電に乗った時のことです。目の前に座っていた女性が、「ティッシュ使う?」
とそばに立っている男の子に声をかけました。
「大丈夫です!」と10歳くらいの男の子は、丁寧に断りました。この言葉づかいと
よそよそしい態度から察するに、親子ではなさそうです。
男の子は目が真っ赤で泣いているようでした。「あれ?どうしたのかな?何が起きているん
だろう?」と状況がわからず見守っていると、そばに立っていた男性が、何やら男の子に声
をかけました。「反対行きの電車に乗っちゃったんだね。車掌さんに話してあげるから、
一緒に前のほうに行こう!」という男性の声が聞き取れました。
男の子は涙をこらえながら「大丈夫です」と繰り返すばかりです。「そうか!乗り間違え
て、少しパニックになってしまったんだね」と周りの乗客の皆さんも、ようやく、状況が
つかめたようでした。私も方向音痴なもので、身に覚えがあり、他人事とは思えませんでし
た。「なんとか窮地を救ってあげたい」と思った時、「次で降ります。大丈夫です」とい
う男の子の言葉が聞けました。乗客一同の少しほっとしたような空気が車内に流れました。
電停に着いて、男の子が電車を降りる間際、今度は出口付近に立っていた別の女性が声を
かけました。「気をつけてね!よくがんばったね!」。ああ、皆さん、なんて優しいんだ
と感動しました。見守ることしかできなかった私は、我が身を省みると共に、心があたたまりました。
世界では日々、悲しい出来事や腹立たしい事件が起きますが、「社会は優しい」と思って
育った子どもはきっと優しい世界を作ってくれるはずです。優しい世界を作る一員として、
私は何ができるか?その場でとっさに考え、動ける大人でありたいと思いました。
折しも、この日のコーチング講座で、参加者のお一人がこんなお話をしてくださいました。
「スーパーに買い物に行った時、レジ担当の人にいつも『こんにちは!よろしくお願いし
ます』と挨拶をするようにしています。先日、購入した家具を自宅まで設置しに来てくれた
業者の方に、『手際が良いですね』と言ったら、すごく嬉しそうにされました。自分の身
の周りから、気持ち良い関わりをしていこうと心がけています」。
昨今、人に対して無関心だったり、できていないことを指摘したりする風潮が多いと感じ
ることがあります。しかし、このように相手の状況に想いを寄せ、感じの良いコミュニケ
ーションをとる人たちが増えると、社会はもう少し優しく居心地良いものになるように感じます。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。