「持論を曲げようとしない相手とはどう関わったらいいでしょうか?」といった質問を、
折々にいただきます。先日も、ある企業の管理職のAさんが、頑固な部下がいて困ってい
ると話されていました。
「Aさんだったら、どんなふうに接してもらえると、この人の言うことも聴いてみようと
思えますか?」と質問してみましたら、「やっぱり、こちらの話にも聴く耳を持って、
まずは受けとめてもらいたいですね」とおっしゃいました。
「そんなふうにAさんが接してみられたら、どうなるのでしょう?」と聞いてみると、
「なるほど!・・・ちょっとやってみます」ということになりました。
その数週間後、Aさんからおもしろい報告がありました。
「部下の話を聴いてみたら、相手も良かれと思っていろいろと考えていたことがよくわか
りました。考えてみたら、向かう先は同じなんですよね。『こんなに真剣に考えてくれて
いるんだな』と思ったら、相手に対する見方がまったく変わりました。とても頼もしく思
いました。相手がこちらの言うことを聴いてくれないと思っていましたが、聴いていなか
ったのは私のほうだったんだと思いました」
Aさんの実践力と気づきに大変驚かされるお話でした。「まず聴いてみよう」と思って実
践してみただけで、相手に対する自分の見方が変わってしまうとはすばらしい成果です。
Aさんの柔軟さに感動しました。
相手の持論の背景にある想いを知ると、「私も最終的にそうなったら良いなと思っていた
んだよ。なんだ!同じじゃないか」と自分の考えとの共通点を見出せることもあります。
「そういう気持ちで、この考えに至ったのか。
そういう状況があったのか」と意図を深く理解できることもあります。
何より、相手の持論に対して、こちらも持論でもって説得しようとすると、相手はいっそ
う頑なになります。論破しようとすると、かえって、自分の意見に固執してしまいます。
ところが、言いたいことを受けとめてもらえると、相手も「ちょっとこの人の言うことも
聴いてみようかな」という気になるものです。
頑固に持論を展開する人に出会った時にもコーチングを思い出していただくと良いかも
しれません。その人は闘って説得する相手ではなく、共に深く探究し、理解を深め合う人
なのです。そんなふうに相手を見るだけでも、頑なな相手も軟化するように思います。相手
の話を聴く、意図や気持ちを質問する、共感できることは伝える、まさに、コーチングの
発揮のしどころと言えます。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。