松下幸之助さんから叱られたことは、数知れず。そのうちの二つ。
一つは、松下さんが、私を、経営担当責任者に指名した会社は、赤字続きの会社。そこで抜本的な対策を講じて、その期をすぐに黒字にした。これには、松下さんも驚き、ほめてくれた。確かに、創設して30年間赤字の会社が、突然に黒字に転換したのだから、松下さんが驚くのは無理はない。
私の月次決算の報告も、「売り上げ、利益は」などと、まず、数字の報告をして、それから、事業活動を説明していた。しかし、数か月後、その順番で報告した途端、松下さんから厳しく叱責された。「いつも、売上げとか、利益がとかと言っているが、まず、どういうことをしてお客さんに喜ばれたか、どういう活動をして世の中に役立つようなことをしたかを報告せんかい」という松下さんの顔は、怒りの表情。「会社は、世のため、人のために存在する」とか、「経営は、いかに人様に喜んでいただけるかだ」とか、「その結果の売上げであり、利益だ。あくまでも売上げ、利益は、社会の貢献した結果である」とか、厳しく叱責された。
いま一つは、月刊誌「PHP」の値上げの問題。当時、同誌は、定価120円。この定価では、同誌は赤字。そこで松下さんに値上げの許可をもらおうと話をしたが、「中学生にも買える定価、この120円にしておこう」と言う。いくら言っても許してくれない。あきらめて、「分かりました。120円でおいておきます。他の部門でカバーし、経営全体で黒字にします」と応えた途端、松下さんの表情が一変。鬼の形相で、「誰が、PHP誌が赤字でいいと言ったんや!PHP誌も黒字にせいや!」。
要は、松下さんの言い分は、A部門で赤字、B部門で黒字、C部門で黒字、全体で黒字ということでは、会社全体の気分が弛緩して、やがて会社は衰退するということ。A部門が赤字でも、その従業員は、B、Cの従業員と同じ給料を得る。やがて、Aの従業員は、「赤字でもいいや」と安易になる。そこには、黒字にしようとする必死の努力は生まれてこない。一方、B、Cの従業員は、「A部門の従業員を俺たちが食わせているのか」と不満が出てくる。一つの部門の赤字が、全従業員の怠惰になって、緊張感が失われることになる。
どの部門でも、1円でも黒字であれば、3部門合わせて、必ず黒字になり、また、3部門お互いに切磋琢磨して、1円どころか、100万円等の利益を上げるようになる。経営とはそういうものだ、ということだろう。松下さんの叱り方は峻烈であった。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。