(明智)光秀がなぜああした主殺しに走ったのか、また、そのことの当否は別として、このように大将が一つの決断を下し、方針を示せば、部下は皆その通りに動くものだということを、指導者はよく知っておかなくてはならないと思う。
指導者の立場からすると、なかなか人間は自分の思う通りに動いてくれないという面があるのも、これは一つの事実である。しかし、指導者が東へ行くと決めた場合に、心からそれに従うかどうかはともかく、「自分はそれに反対だ、自分は西へ行く」という人は、ほとんどいないと言っていいだろう。
だから、指導者にとって、進むべき方向を定め、それをはっきり示すということがきわめて大切である。その方針によって、全体が一つの方向に動いていくわけである。
けれども、それだけに大事なことは、そうした方針に誤りがないか、その良否の判断を的確にしなくてはならないということである。“一匹狂えば、千匹狂う”というのは、なにも馬に限ったことではない。
だから、指導者は、常になにが正しいかを考えつつ、それに基づいて誤りない方針を示していくことを心がけなくてはならないと思う。
(『指導者の条件』1975年12月1日刊 192頁)
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(江口克彦のコメント)
大将が右と言えば、部下たちは右に行く。左と言えば、左に行く。松下幸之助さんの言う通りです。ですから、大将の方針が狂えば、部下たちの動きも狂うのは当然です。
だからこそ、大将は、私心にとらわれず、正しい方針を明確に打ち出すことを心掛ける必要があるのです。正しい方針であれば、戦さに勝ち、誤った方針を出せば、戦さに敗ける。すなわち、大将の判断、方針で、戦さの勝敗が左右されるというわけです。
経営においても同じこと。社長の出す方針に、社員、従業員は、おおむね従うものです。ですから、経営の「勝敗」は、社員、従業員にあるのではなく、その方針を出した社長にあると言えます。
松下幸之助さんが、「経営がうまくいくかどうかということは、結局は最高責任者である社長一人(いちにん)の責任だと思います」と、いろいろな著作でも書き、話をしていますが、当然でしょう。
よく、社長が交代すると、それまで隆々と発展していた会社が、新しい社長になった途端に、衰退していくということがあります。それはなぜかと言うと、それまでの正しい方針を、新しく交代した社長が、自分にとらわれ、自分を誇示しようとして、「私心ある指揮棒」を振るうからです。
そうして、結局は自滅する。それだけならいいのですが、社員、従業員を巻き添えにして、ついには会社を衰亡させてしまうのです。
社長たる者、常に「正しい方針」を、私心なく、明確に提示し、社員、従業員とその家族を不幸にしないということが非常に大事ではないか。松下幸之助さんの言う、「正しい方針」を立てることを、心にしっかりと置きながら、経営をすることを忘れてはいけないのではないかと思います。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。