自己を正しく評価することは、これはきわめて大切なことではないかと思うんです。しからば、どうして評価するかということになると、これは非常にむずかしいですな。
すぐに分かるものであれば、自己認識に努力する必要はないと思うんですね、すぐ分かるんですから。しかし、すぐ分からない、知りようのないほど、むずかしいものであるというだけに、常にこのことを心がけておかなくてはならんと思うんです。私は絶えず私自身の力というものを自問自答しているんです。
どうして判定するかという問題ですな。まず第一に、そういう心構えを持って、自分というものを知る、考えるようにする。これは行き過ぎである、これはまだまだできるということを、ある程度、考えるようになっていく。そのことが、自己を知る第一歩だろうと思うんです。
第二は、上下の人に尋ねること。上に「私はどのくらいの力がありましょうか」。これは尋ね易いし、また、言ってくれ易い。しかし、部下に自分の力はどうかというのは、尋ねにくいし、部下も答えにくい。しかし、尋ねなければいかんと思うんです。
だから、部下がやっぱり言い易いような態度を持っているということが大事でしょうな。そうして、上に尋ね、部下に尋ねつつ、自己観照し、自己を正しく評価する、こう思うんですがね。
これは非常にむずかしいことですが、非常に大事なことではないかと思うんですね。
(昭和43年7月9日 関西電力経営研究会)
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(江口克彦のコメント)
『孫子』にある、有名な言葉に「彼れを知りて己れを知れば百戦殆(あやう)からず。彼れを知らずして、己れを知れば、一たび勝ちて、一たび負く。彼れを知らず、己れを知らざれば戦うごとに必ず殆(あやう)し。」(『孫子』謀攻篇第三)があります。
「己れを知ること」が大事なのは、別に戦さだけではありません。経営においても、いや、人生においても、自分を知ること、自分で自分を正しく評価することは、孫子的に言えば、百戦して負けない、すなわち、そのまま、経営の成功者になり、人生の勝者になるのではないかということです。
松下幸之助さんが、とりわけ、経営に成功したのは、自分を知ることが大事であると強く意識して、そのときどきの、自分の力、会社の実力を謙虚に見極め、自己観照したからでしょう。また、そのときどきの自分の能力を見つめ、自分の会社の力量をしっかりと把握して、事にあたったからでしょう。だから、おおよそ、「戦(いくさ)」に勝つことができたのではないでしょうか。
そのために、松下さん自身は自問自答してきたが、皆さん方は、上司に尋ね、評価してもらい、また、とりわけ、部下に聞いて、評価を頼むことを躊躇(ちゅうちょ)してはならない。そのようなことをしてみてはどうかと提案しています。
加えて、上司は、部下が言い易い態度、雰囲気を身につける努力を怠るべきではないと、松下さんは、上司の人たちに釘(くぎ)を刺しています。
自戒も込めて、お互い、自分を見つめ、自分にどれほどの実力があるのか、正しく評価することの大切さを再認識し、客観的に観照しつつ、経営の道、人生の道を歩いていくことに努めたい、そうすれば、まさに「百戦して殆(あや)うからず」ではないかと、そのように思います。
松下幸之助は、事に当たり「深刻に考えず、真剣に考える」ことが経営では大切であると言っています。
自分でコントロールできないことを手放し、コントロールできることに集中するということではないでしょうか。
しかし、何事も一人で解決するには限界があるといわれています。一緒に解決策・打開策を考えませんか。